要らない物

季節

 先日、季節が変わり衣替えをしました。そのタンスの一番奥に、まだ着たことのないセーターが眠っています。そのセーターは、生前、母が私のために編んでくれた物です。

まだ暑い日に実家に帰った時のことです。突然、母から「セーター編んだから着てみて」と言われ、ちょっと「めんどうだな~」と思いながら着たのを覚えています。体の寸法を測らずに編んだため、体のサイズに合わず、母から「もう一度編み直そうか?」と言われたのですが、ちょっと面倒だった私は「いいよ、このままで!」と言って受け取りました。

それから20年以上、タンスの一番奥に眠ったままとなっています。

『親孝行したいときには親はなし』ということわざをよく聞きます。まさに私自身です!親孝行したいときには親はいません。母は、いつ返ってくるかわからない私のために編んでくれていました。きっと、私にそのセーターを渡す日を心から楽しみにしていたのだと思います。

母はとても気が強く、いつも他人と喧嘩していたのを覚えています。しかしその反面、気持ちは繊細で傷つきやすく、いつも父親や私たち兄弟に愚痴をこぼしていました。子供ながらに「とても面倒な人だな~」といつも思っていました。要は、人との関わりにとても不器用な人でした。そしてその不器用さは、子供の私に対しても同じだったのだと今更ながら気付かされます。親は子供を持って初めて親になります。子供は当然、それに気が付きませんよね!

セーターを受け取ったとき、そのセーターは私にとって『要らない物』でした。しかし、あのときその要らなかったセーターは、今の私にとって母が残してくれた唯一の物となり、私を一番大切に思ってくれた母の形見となっています。

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